◆□◆再生紙と白色度と現状◆□◆

講師:江尻京子(ゴミニスト)

日時:1996年11月15日(金)

場所:町田すみれ会館

要約:再生紙の学習帳を求めていくうちにたどり着いたのは、再生紙かどうかではなく白色度の問題でした。業者は「消費者が白さを求めている」と言ったので本当かどうか市民アンケートをとったところ、それ程白さにこだわっていないことが分かりました。環境に負荷の少ない未ざらしや真っ白ではない再生紙の商品を広め、そういう商品を選ぶ確かな目を育てていきたいです。

 

1.再生紙のノート屋さん開業

長男が小学校に入学し、当然のように教科書とノートを使うようになりました。ある日ふと彼の学習帳をみてみて、やけに紙の白さが目立ち、こんなに真っ白だったのかと驚いてしまったのです。そこで、「ごみを考える会」の仲間たちと再生紙の学習帳を見つけ出すことはできましたが、その時メーカーは販売中止を決めていたときでした。その見つけ出した学習帳の表紙はテカテカしていない素朴な紙で、本文は淡いクリーム色、ベージュ色ともいえる素敵な色合いでした。ところが、メーカー側は「売れない」の一点張りでした。そこで、「ごみを考える会」では、多摩ニュータウンの中に7軒の「ノート屋さん」を開業しました。子供たちがピンポンとドアのベルを押してノートを買いに来ました。こんな具合でノートを売ってみると200冊、300冊と売れました。これを機にノートを売ってくれる文房具屋さんを探し、多摩市内に何軒かの文房具屋さんが再生紙ノートを販売してくれるようになりました。

2.エコロジー学習帳はできたけれど...

商品が売れるから作る、というのがメーカーですから、これによって生まれたのがリニューアルされた「エコロジー学習帳」でした。私が思っていたものとは一寸イメージが違ってハデな表紙の学習帳ではありましたが、特別な意識を持った人達だけでなく誰でもが気軽に買える商品として、再生紙でできた学習帳で勉強できる第一歩としてもうれしかったのです。その後、「日本の常識」の壁は厚く、ノートは白いものが高級品、紙は白ければ白い程売れるという波に押しつぶされて、「真っ白い再生紙の学習帳」に切り替わり、エコマークのお墨付きで通用しています。

3.白いノートにこだわらない人は59.7%

さて、再生紙のノートが手に入るようにはなったものの、なぜ、こんなに白くなくてはならないのかという疑問が残ります。メーカーは白くても黒くても、売れるものを作るといいます。そこで、一般の消費者が紙の白さに対してどのように考えているか調べてみました。ノートに関していえば、白いノートが欲しいという人は37%、こだわらない人は59.7%、こだわらない人の方がずっと多いのです。また、トイレットペーパーについても350人の人に複数回答で調べてみました。結果は次のとおりです。

問.あたなはどのトイレットペーパーを買いますか。

再生紙 45.5%

パルプ100% 12.8%

お買得品 47.2%

わからない 5.0%

問.値段が同じならどのトイレットペーパーを買いますか。

未ざらし 33.9%

漂白古紙 17.8%

バージンパルプ 8.5%

どれでもよい 37.0%

このアンケートでも分かるようにメーカーが思っている程に、白さやバージンパルプに消費者はこだわっていません。ちなみにドイツでは学校の教科書もノートも再生古紙のものが使われていて、グレーがかった色の再生紙のノートを使うことが、トレンディーであり、ステイタスのあかし、と考えられているそうです。

4.白くすればする程、環境破壊!

紙の色を白くするためには、より多くの手間や薬品が必要です。再生紙の場合は白さを求めれば求める程、脱墨の工程を繰り返さなければならないのです。手間も薬品も使えば使うほど製造コストは上がるしペーパースラッジというへどろのもとができたり、水を汚したりと環境にあたえる負荷も大きくなるのです。

中野純子・萩原久美子レポーターから一言

講演を聞き終って強く感じたことは、再生紙を使っていくことはもちろんですが、白さにこだわらず、用途によって紙を選ぶ目を持つことが大切だということです。1人でも多くの人が白さだけを追求するのではなく、未ざらしのものや再生紙が自然に溶け込んでいる日常生活をしたいものです。それが本当の意味での“ぜいたく”“豊かさ”と言えるのではないでしょうか。

 

◆□◆最近の古紙事情を聞く◆□◆

講師: 土方十四江((株)下田商店)

日時:1997年2月8日(土)

場所:多摩交流センター

要約:最近「古紙が余っている、価格が暴落している」ということをよく聞きます。リサイクルが大切とはいっても、集めるだけではだめ。再生された商品が使われないと、結局はごみになってしまいリサイクルの輪は完結しません。

 

1.製紙原料問屋の仕事

下田商店は、集荷業者から回収した古紙を買い取り、異物を除去し、品目別に選別し、梱包(プレス)をしてメーカーへ卸すという製紙原料問屋の仕事をしています。古紙の問屋には、製紙原料の品質の管理、需給調整といった機能があります。

また、日野市は古紙・びん・缶など7品目の資源回収をしており、この仕事が日野市のリサイクル業者の組合(日野資源リサイクル組合)が委託を受けている関係で下田商店も参加しています。

回収した古紙には、いろいろな異物が混ざっていますが(時には現金230万円が入っていたことも!)、一般的には行政の資源回収よりも集団回収の方が品質がいいようです。

最近は柳泉園の例のように、行政が古紙のプレス機を設置して、問屋業の代行をするようなこともしています。しかし、現在全国の問屋は1,550万トン(容積にして東京ドームの22倍)もの古紙を集荷・処理・出荷しており、これを行政が肩代わりすることはとても無理です。行政は民間のリサイクル機能を活かして、もっと行政にしかできないことをやって欲しいものです。行政の資源回収があるので、製紙メーカーが古紙を集める努力をせず、値下げするのだという指摘もあります。

2.最近の古紙の市況について

昨年の東京都の事業系ごみ全面有料化、4月からの容器包装リサイクル法の施行など、リサイクルの推進は社会の流れとなっています。しかし、古紙についていえば、集めた古紙を使い切れずに余剰している状況です。問屋でも在庫率が高く、屋内に置ききれないので、野積みにしている所もあります。野積みにすると、品質が悪化するので結局ごみというケースもあります。また、古紙の価格が下がり、リサイクル業者の転廃業も多くなっています。回収を有料化しようとする試みもされていますが、とにかく厳しい状態で、病気にたとえれば危篤状態に近いのです。それでも社会はリサイクルを求めており、業者にとっては「痛し痒し」といったところです。

この状態を解決するためには、古紙の需要拡大と多用途利用が必要です。再生品をもっともっと使ってもらえるように、スーパーなどに「再生品コーナー」を作ってはどうでしょうか。

3.それぞれにできること

ごみ問題の解決には、まずごみの発生抑制が不可欠です。市民にできることは、リサイクルに関する情報を持ち、発生抑制、再生品の利用など、ライフスタイルを変えていくことだと思います。また事業者は廃棄まで含めて考え製造責任をとるべきでしょう。行政には、再利用を促進するために「修理店ハンドブック」のようなものをつくるとか、集団回収を強化する、分別の徹底をPRするなどをお願いしたいです。「大量消費・大量リサイクル」の社会になってしまわないように...

島村素子レポーターから一言

参加者からは分別に関する質問が多く、「点字用の紙はリサイクルできない」「色付きの新聞紙は雑誌に分類する」など、具体的なお話を聞くことができました。また、参加した農工大学生からは、「子どものころ、分別収集をしている地域で育った。最初から分別するのが当たり前だと思っていれば、そんなに苦にならないのでは」「商品に材質やリサイクル方法などを明記するようにしては」などの提案がありました。紙だけでなく、ごみ全体の問題ですが、実際に見て体験しながら物を大切にしていく心を養っていくことが大切だと分かりました。

 

◆□◆インドネシアのパルプ工場から「紙」を考える◆□◆

講師:安部竜一郎(日本消費者連盟)

日時:1997年2月14日(金)

場所:多摩交流センター

要約:インドネシアで、日本も出資するパルプ生産工場建設計画が進められています。しかし原材料となる木材の調達方法や排水の環境汚染など、多くの問題点を抱えています。インドネシアと日本では社会環境の違いもありますが、日本の紙大量消費のツケがインドネシアに回ってしまっているのではないでしょうか。

 

1.建設プロジェクトの概要

インドネシアスマトラ島、南部パレンバンから車で3時間のところに、製紙原料となるパルプ生産工場の建設プロジェクトがあります。日本側が主導権をもって進めているプロジェクトですが、地元住民の反対運動が起きています。

計画されているのは高級紙用パルプの生産工場で、パルプは日本とヨーロッパの市場へ向けて輸出されます。将来はインドネシア国内でも需要が見込まれています。資本金は日本側[OECF(海外経済協力基金)、丸紅、日本製紙など]、インドネシア側(大統領の娘の企業)、バリト・パシフィック・グループ(インドネシア最大の木材産業グループ)、その他日本とヨーロッパの財閥で出し合っています。バリトというのは華僑系の大財閥で、スハルト大統領の縁戚関係にあり、悪らつなやり方をすることで有名です。メダンのパルプ工場予定地では、ブナカット語族の共有林の1/3をバリトが不法伐採してしまいました。

「ムシ川」という大きな川があり、その支流沿いに工場は作られます。99年建設予定で、生産量45万t/年(1,400t/日)の規模です。技術はベルギーのもので、運営は日本製紙が行います。建設予定地1,250ヘクタール、一大工業都市ができるかもしれません。

2.問題点1<原料の調達>

予定では「22万ヘクタールの荒無地にアカシアマンギウムを植林して原料とする」となっていますが、実はそこは熱帯雨林です。インドネシアは土地登記があいまいなため、荒無地扱いになってします。アカシアの植え方もいい加減ではげ山状態。近くに油田があるせいか山火事が頻発していますが、放置したままです。おそらくバトリは、アカシアよりも熱帯林がねらいだったのでしょう。伐採権のないところまで不法に伐採し、裁判が起こっています。土地の取得には地方政府が介入しており、政府と軍が事実上一体のインドネシアでは住民は逆らうことができません。だまされたり、泣く泣く土地を手放した住民もいます。

3.問題点2<工場排水による環境汚染>

ムシ川の支流は流れがゆるく水汚染が心配されます。影響を調査したようですが雨期のデータでは、乾期は川の水量が減るのでどうなるか分かりません。地域住民の飲み水も川からとっており、健康被害が心配です。下流都市のパレンバンにも影響があるでしょう。川の汚染を防ぐために情報公開を望んでいますが、公開しません。たとえば、川に直接放流するのであれば排水口の位置が問題になりますが公表されていません。純塩素を使わない生産方法なので従来よりは汚染が少ないということですが、どの程度汚染防止対策を行うのか具体的に分かりません。対応策として、独自に汚染物質のデータをとるモニタリング調査を考えています。

4.スライド上映<予定地の様子>

村でも伝統的に林業が行われていますが、「切ってもいい木」には一定の基準があり、持続的に林業ができるやり方が取られています。農業と漁業の土地で、立派なゴム園もあります。ゴム園で働く人の収入は約20,000ルピア/日ですが、パルプ工場ができた場合の収集はインドネシアの平均からいって約4,500ルピア/日になると思われます。地元住民は、安い賃金では働きません。パルプ工場とその城下町ができた場合、ジャワ島などから出稼ぎの人が来て、それにより民族的なあつれきが生じるでしょう。共同体崩壊の危険もあります。工場建設問題について話し合う集会には、となり村からも参加がありました。バリトの強引なやり方に対し、反対の声が上がっています。

5.日本での紙大量消費も要因

日本では新たな工場をつくりにくいと言われています。今後は、原料となる熱帯林が豊富でしかも輸送・輸出する際に便利な港のあるところ、例えばブラジルやインドネシアに工場進出が増えるでしょう。日本へはパルプになった状態で入ってきます。汚染は外で終る。その結果、パルプ生産の場で手抜きがあったとしても日本では分からないので、公害輸出になる危険性もあります。

島村素子レポーターから一言

結局、日本での紙消費のツケがインドネシアに回っています。このような観点からも、今の大量生産・大量消費型社会のあり方が問われているのではないでしょうか。